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仙台地方裁判所 昭和35年(ワ)504号 判決 1974年4月24日

原告

渡辺愛雄

外一九二名

右訴訟代理人

樋口幸子

外三名

被告

東北電力株式会社

右代表者

若林彊

右訴訟代理人

三島保

外一名

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実《省略》

理由

第一被告の本案前の主張について

被告は本案前の抗弁として、別表記載の原告らは、既に被告会社における従業員の停年に達しているから、被告会社の従業員たる地位の確認を求める訴の利益がない旨主張する。

しかしながら、原告らは第一次に現在なお被告会社の従業員たる地位にあることの確認を求めているものであつて、過去において被告会社の従業員であつたことの確認を求めているものでないことはその請求の趣旨から明らかである。そうとすると、被告会社の主張するように既に停年に達したか否かは、これにより原告らと被告会社間の雇傭関係が終了したか否かの本案に関する問題であるから、右事由を理由に訴の利益の欠缺を主張する被告の本案前の主張は、時機に遅れた主張か否かについて判断するまでもなく理由がない。

第二原告らの第一次請求について、

一  目録第一、第二記載の原告らが配電(編注、東北配電株式会社)の、同第三、第四記載の原告らが日発(編注、日本発送電株式会社)の各従業員であつたことは当事者間に争いがない。

二  原告らは配電、日発と原告らとの間の雇傭関係は、被告会社設立と同時に被告会社に承継されたから、原告らは被告会社の従業員たる地位を有する旨主張するところ、被告は日発、配電と原告らとの雇傭関係は既に被告会社設立前に終了している旨主張すると共に被告会社への承継を争うので、先づ日発、配電各社と原告らとの雇傭関係が被告主張のように終了していたか否かについて判断する。

(一)  被告の合意解約等の主張について

(1) 被告は原告小野仁佐治は昭和二五年八月二三日に、原告井越春三は同年同月二四日それぞれ退職している旨主張するけれども、これを肯認するに足る証拠はない。

(2) しかして、日発、配電が昭和二五年八月二六日付書面をもつて各会社の従業員であつた原告らに対し、それぞれ同月三〇日までに退職願を提出して任意退職すべき旨及び右期日までに退職の申出がない場合には同月三一日付で解雇する旨の本件通告をなしたことは当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、日発、配電から原告らに対してなされた本件通告の文面は「当社は今般組合へ申入れた趣旨により貴殿に退職していただくことになりました。よつて来る八月三〇日迄に別紙退職願書に署名捺印し所属長に届出の上円満退職されるよう御勧め致します。右期日迄に退職の御申出のあつた場合は依頼退職と致しますが、御申出のない場合は八月三一日付をもつて本通告書を辞令にかえ解職することと致しますから御承知置き下さい。」というのであり、次いで期日までに退職願を提出した場合には所定の退職金、解雇予告手当のほか「特別退職金」を支給することとして退職願を提出しない場合に比較して総支給額において相当程度の差をみることを明らかにし、最後に「追つて会社は職場秩序維持のため貴殿に対し八月二六日以降当社の事業場その他の諸施設に立入ることを禁止しますから併而通告致します。但し退職願提出、退職金(解雇予告手当を含む)受領及び私物整理の為め当会社の承認を得られた場合は此の限りでありません。」と付記されているものであることが認められるところ、目録第一、第三記載の原告らは本件通告に応じ前記期日までに日発、配電に対し退職願を提出して退職金、特別退職金等を受領したものであることは当事者間に争いがない。

また目録第二、第四記載の原告らは前記期日までに退職願を提出しなかつたため本件通告により昭和二五年八月三一日付で解雇されたこと、しかしその後右解雇を不服として日発、配電を相手に提訴した仙台地方裁判所昭和二五年(ヨ)第一八二号、第一八三号身分保全仮処分申請事件において、昭和二六年六月一二日、右原告らが昭和二五年九月二五日に日発、配電の各社より依願退職したことを確認する旨の裁判上の和解が成立したものであることは当事者間に争いがない。

(3) 以上認定の事実によれば、日発、配電より原告らに対してなされた本件通告は、任意退職の勧告を兼ねた合意解約の申入れと共に八月三〇日までに退職願の提出がなく雇傭関係が合意により終了しない場合を条件とする停止条件付解雇通告と解するのが相当であるところ、目録第一、第三記載の各原告らは、前述のように所定の期日までに退職願を提出して退職金、特別退職金等を受領しているのであるから、同原告らについては本件通告による解雇の効力が発生する以前に合意解約が成立したものというべく、してみれば、目録第一、第三記載の原告らについて、会社の解雇の意思表示による一方解雇であることを前提としてその無効をいう同原告らの主張はすべて理由がないといわねばならない。

(4) また以上の事実によれば、目録第二、第四記載の原告らは本件通告により昭和二五年八月三一日付で解雇されたものであるが、その後前記の仮処分事件において、同原告らと日発、配電間に前記のような裁判上の和解が成立しているものであり、右裁判上の和解は、結局、同原告らと日発、配電間の雇傭関係を合意解約により昭和二五年九月二五日をもつて終了させる趣旨であることは明らかであるから、右裁判上の和解に無効事由がない限り、同原告らと日発、配電間の雇傭関係は昭和二五年九月二五日限り合意解約により終了したものといわなければならない。

(二)  目録第一、第三記載の原告らの合意解約無効の主張について

(1) 公序良俗違反による無効の主張について

同原告らは、日発、配電の原告らに対する本件通告は昭和二五年五月三日以降同年六月六日、同月七日、同月二六日及び七月一八日に連合国最高司令官より発せられた、いわゆるマ指令に基づき、企業内から共産党員及びその同調者を排除しようとの意図の下になされたものであるから、本件通告は憲法一四条、一九条労働基準法三条等に違反する無効なものであり、したがつて原告らの退職願の提出による合意解約自体公序良俗に違反し無効である旨主張するところ、日発、配電から原告らに対して本件通告がなされた実質的な理由が、原告ら主張のいわゆるマ指令の趣旨に従い、いわゆる重要産業である日発、配電から共産党員及びその同調者を排除するためになされたものであることについては弁論の全趣旨に徴し、被告の明らかに争わないところと認められる。

ところで、昭和二五年五月三日の連合国最高司令官の声明並に同年六月六日付、同月七日付、同月二六日付、七月一八日付内閣総理大臣宛の書簡の趣旨は、公共的報道機関その他の重要産業の経営者に対し、その企業から共産主義者またはその支持者を排除すべきことを要請した連合国最高司令官の指示と解すべきであり(最高裁判所昭和三五年四月一八日大法廷決定民集一四巻六号九〇五頁参照)、当時、我国の国家機関及び国民は連合国最高司令官の発する一切の命令指示に誠実且つ迅速に服従する義務を有していた(昭和二〇年九月二日降伏文書五項、同日連合国最高司令官指令一号一二項)ものであるから、我国の法令は右指示に牴触する限りにおいてその適用を排除され、その命令指示は、いわゆる超憲法的効力を有したものと解すべきである(最高裁判所昭和二七年四月二日大法廷決定民集六巻四号三八七頁、昭和三五年四月一八日大法廷決定民集一四巻六号九〇五頁参照)。

原告らは、連合国最高司令官の右指示はポツダム宣言及び国際連合憲章、世界人権宣言等の国際法規に違反する無効なものである旨主張するけれども、右指示がこれらに違反すると否とを問わず、我国の国家機関及び国民はこれに服従する義務を有したことは前述のとおりであるから、右違反を理由に前記連合国最高司令官の指示を無効とすることはできない。

しかして、本件原告らがいずれも共産主義者またはその同調者とみなされる者であつたことは原告らの自認するところであり、日発、配電が、国民生活に不可欠な電力を供給する業務を営む会社であり、両社の営む電気事業は公共性の高い基幹産業であることは明らかであるから、日発、配電は前記指示にいわゆる重要産業に該当するものというべきである。

してみると、連合国最高司令官の前示指示に基づきなされた本件通告は法律上これを無効と解することはできないし、一般に民事上の法律行為の効力は、他に特別の規定のない限り、行為当時の法令に照して判定すべきものであるから、その無効を前提として、目録第一、第三記載の原告らと日発、配電間の前記合意解約を公序良俗に違反し無効とする同原告らの主張は理由がないといわねばならない。

(2) 要素の錯誤による無効の主張について

同原告らは、退職願の提出に際し、日発、配電による本件合意解約の申込みがいわゆるレッドパージであり、占領下においては超憲法的効力を有する占領軍最高司令官の指令に直接基づくものであるから会社の申入れを絶対拒否できないものと誤解して退職願を提出したもので、右錯誤がなければ退職願を提出する筈がなかつたのであるから右退職の意思表示は要素の錯誤により無効である旨主張するけれども、日発、配電より原告らに対してなされた本件通告が無効でないことは右に判断したとおりであり、この点について原告らに錯誤があつたことは認められないし、原告らが会社の申入れを拒否できないと誤解したとしても、それは退職願を提出するについての動機にすぎず意思表示の内容をなすものではないから、要素の錯誤を理由とする無効の主張も理由がない。

(3) 心裡留保による無効の主張について

同原告らは、退職願の提出による退職の意思表示は心裡留保により無効である旨主張する。

しかしながら日発、配電はマ指令に基づき、企業を防衛し、電気事業の公共的使命を全うしようとの目的の下に、右に不適当な従業員を排除する措置をとるべくその内部において協議の結果、(A)事業の公共性に自覚を欠く者、(B)常に煽動的な言辞をなし他の従業員に対し悪影響を及ぼす者、(C)正当な組合活動の域を逸脱する行為をなす者等電気事業の円滑な業務の運営に支障を来す者またはこれに協力しない者を不適格な者として企業から排除することとし、これを更に具体化した解雇基準要綱を策定し、これに該当する者を解雇する方針を立てたこと、日発、配電は右に基づきそれぞれ調査の結果、原告らはいずれも右基準に該当し、かつ共産党員またはその同調者であると認定したうえ本件通告をなしたものであるが、当時原告らの所属する日本電気産業労働組合の執行部は反共産の立場に立つ者で占められ、本件通告がなされる以前に、右組合の中央常任執行委員会は組合員に対し昭和二五年七月一〇日付の「電産非常事態拾収に関する特別指令」及び「確認書」を配付して組合の中から共産党員及びその同調者を排除しようとするマ指令に呼応する措置をとり、本件通告による一斉整理についても、日発、配電から人員整理実施要項を事前に提示されてはいたが、これに対しては同年八月二八日付で声明を出したものの、その内容は一斉整理に必ずしも反対を貫くというものではなかつたこと、本件通告をうけた原告らは当時他の重要産業においてマ指令に基づく、いわゆるレッドパージが行われていた社会情勢から本件通告もレッドパージの一環として行われたものと認識していたが、当時の諸般の客観的情勢から本件通告に反対する行動をしても、労働組合の支持は得られないものと認識していたことが認められる。

右認定の事実に目録第一、第三記載の原告らが退職願を提出して退職金、特別退職金等を受領している事実を併せ考えれば、同原告らは不本意ないし内心不満ながら退職願を提出したものとしても、諸般の事情から利害得失を考慮のうえ、会社からの合意解約の申込みを承諾して特別退職金を得た方が賢明と考え退職願を提出したものと推認され、したがつて同原告らは真意に基づいて退職願を提出したものと認めるのが相当であつて、各原告本人尋問の結果中退職願の提出が真意でない旨の供述部分は採用できず、他にこれを認めるに足る証拠はないから、同原告らの右主張も理由がない。

(4) 強迫、詐欺による取消の主張について

同原告らは、同原告らの退職願の提出による退職の意思表示は会社側の強迫、詐欺によるものであるから、これを取消す旨主張するけれども、会社側が同原告らを強迫或いは欺罔した事実を認めるに足る証拠はないから、同原告らの右主張も採用できない。

(三)  目録第二、第四記載の原告らの裁判上の和解無効の主張について

(1) 要素の錯誤による無効の主張について

日発、配電より同原告らに対してなされた本件通告が無効でないことは前に判断したとおりであるから、その無効を前提とする同原告らの右主張は既にこの点において理由がない。

(2) 心裡留保による無効の主張について

<証拠>によると、目録第二記載の原告らと配電間の本件裁判上の和解(仙台地方裁判所昭和二五年(ヨ)第一八二号身分保全仮処分申請事件)は、申請人佐藤栄蔵、同長峰毅及び申請人ら代理人弁護士大塚一男と被申請人代理人弁護士三島保が各出頭して成立したものであること、また<証拠>によると、目録第四記載の原告らと日発間の本件裁判上の和解は、申請人柴田健蔵及び申請人ら代理人弁護士大塚一男と被申請人代理人弁護士三島保が各出頭して成立したものであることが認められるところ、右裁判上の和解の表意者である申請人佐藤栄蔵、同長峰毅、同柴田健蔵及び申請人ら代理人大塚一男が真意に基かずして右裁判上の和解をなしたことは固より、仮りにそれが真意でなかつたとしても相手方代理人である三島保において、その真意でないことを知りまたは知り得たことを認めうる証拠はないから、同原告らの右主張も理由がない。

(3) 詐欺による取消の主張について

同原告らは、本件裁判上の和解の意思表示は会社側の詐欺によるものであるからこれを取消す旨主張するけれども、右詐欺の事実を認めうる証拠はないから、右主張も理由がない。

(4) 公序良俗違反による無効の主張について

同原告らは、本件裁判上の和解は、会社側が原告らの窮迫状態につけこみ、これに乗じて強引に成立させたものであるから公序良俗に違反し無効である旨主張するけれども、前認定のように本件裁判上の和解は、当事者双方とも代理人である弁護士が出頭して成立したものであつて、本件全証拠によるも原告ら主張のように原告らの窮迫状態につけこみこれに乗じて強引に本件裁判上の和解を成立させたものであることは認められないから、同原告らの右主張も理由がない。

(5) 事情変更の原則による取消の主張について

同原告らは、本件裁判上の和解成立当時、我国は未だ占領下にあつて権利の救済を得られなかつたため、やむなく本件和解に応じたが、平和条約発効後の現在においては占領軍の指令等に拘束されずに本件解雇の効力を争い得るようになり、その間著しい社会事情の変更があるから、事情変更の原則に基づき本件和解の意思表示を取消す旨主張する。

しかしながら、前にも述べたように一般に民事上の法律行為の効力は、他に特段の規定がない限り、行為当時の法令に照して判定すべきものであるから、連合国最高司令官の指示に基づいてなされた本件通告及び本件通告による解雇の効力並にこれに関連してなされた本件裁判上の和解の効力は、その後平和条約の発効と共に右指示が効力を失つたとしても、何ら影響を被るものではない(最高裁判所昭和三五年四月一八日大法廷決定民集一四巻六号九〇五頁参照)から、同原告らの右主張も採用の限りでない。

(四)  以上のとおりであつて、日発、配電と目録第一、第三記載の原告ら間になされた合意解約及び右会社と目録第二、第四記載の原告ら間になされた裁判上の和解の無効をいう原告らの主張はすべて理由がないから、日発、配電と目録第一、第三記載の原告らとの雇傭関係は、遅くとも昭和二五年八月三〇日合意解約の成立により、また日発、配電と目録第二、第四記載の原告らとの雇傭関係は、本件裁判上の和解により昭和二五年九月二五日に合意解約により、いずれも終了したものといわなければならない。

三右の次第で、日発、配電と原告らとの雇傭関係は既に終了していたものであるから、これが終了しないこと前提とする原告らの地位確認の請求はその理由がないのであるがなお更に、日発、配電から被告会社に対する雇傭関係の承継の点について判断を加えると、

(一)  被告会社設立の経緯

被告会社が昭和二六年五月一日再編成令(編注、昭和二五年政令第三四二号電気事業再編成令)、集排法(編注、過度経済力集中排除法)、特例法(編注、集排法施行に伴う企業再建整備法の特例に関する法律)により電気事業経営を目的として設立され、日発、配電所属の各資産の一部を取得したことは当事者間に争いがなく、右設立の経緯につき、<証拠>によれば、次の事実を認めることができる。

昭和二二年一二月一八日法律第二〇七号により集排法が制定施行され、その後配電を含む全国九の配電会社および日発は同法に定める過度の経済力の集中として指定を受けたが、さらに昭和二五年一一月二四日公布(同年一二月一五日施行)された再編成令によつて、右一〇の各指定電気事業会社(同令別表第一参照)の再編成に関しては、集排法および特例法(昭和二二年法律第二〇八号)のほか同令の定めによること(同令二条)、集排法七条二項七号による企業再編成計画書の作成は次のような方針に従うべきこと(同令三条)などが規定された。すなわち同令別表第二に掲げる区域を電気供給区域として、新たに九の電気事業会社(以下新会社という。)を設立し、各指定会社は解散すべきこと、指定会社の有するダム、水路、貯水池、器具、機械、電線路その他の電気工作物であつて同令別表第三に定めるものは、同表に定める区分に従い新会社に出資しまたは譲渡すべきこととされたのである。

そこで日発、配電各社は公益事業委員会に対し、それぞれ右方針に従つて作成した企業再編成計画書を提出し、昭和二六年三月三一日同委員会の決定指令により、その一部を除くほかほぼ提出案どおりの承認を受け、右計画書の定めるところにもとづき、配電、日発が発起人となり、日発が三億円、配電が六億円の各現物出資をして、昭和二六年五月一日被告会社を設立し(同日設立登記)、右設立と同時に日発、配電各社は解散して清算手続に入つたものである。

(二)  雇傭関係の承継について

(1) 前記認定のとおり、被告会社は日発、配電各社が発起人となつて新たに設立された別会社であるから、会社合併におけるばあい(商法一〇三条)とは異なり、原告らの日発、配電との雇傭関係が当然に被告会社に承継されるものということはできず、右承継については関係法令の特別の規定ないし会社間の承継方法の定め等に従つて行なわれるべきものと解すべきである。ところで被告会社設立に関する前記各法令には、右承継について特別の規定を見ることはできず、一方日発、配電各社作成の前記企業再編成計画書中「諸契約等の承継方法」の項には、原告ら主張のごとき次のような記載がある(この事実は当事者間に争いがない。)

すなわち右に定める承継方法によれば、日発、配電各社が「解散時において現に有する一切の諸契約、協約、諒解事項その他の法律行為に基くすべての権利、義務及び法律上の地位は、当該会社において特別の意思表示をしない限り、全部新会社に承継される」こととなるのであつて、日発、配電各社が原告らとの間に有する雇傭関係もまた右方法による承継の対象となることは、その文言に照らして明らかである。そして右承継方法を定める前記企業再編成計画書は、前記認定のとおり、公益事業委員会の決定指定により承認を受けたものであつて、日発、配電は集排法の定める不服ないし変更申立(同法一三、一四、一九条)の方法によつて争う余地はあつても、直接これに違背することは許されなかつたものということができる。

(2) そこで以下、原告らの日発、配電との雇傭関係が、前記承継方法により、被告会社に承継されたか否かにつき検討をすすめるに、<証拠>を総合すれば、次の事実を認めることができる。

すなわち被告会社設立当時、日発、配電を含む前記指定電気事業一〇社の代表は幾度か一堂に会し、新会社設立に関して種々の協議を行なつたが、その際各指定会社従業員の新会社への引き継ぎ問題についても話合いがなされ、その結果、日発、配電関係については、配電従業員のうち、任意退職している者あるいは被告会社に就職を希望しない者等を除き原則として全員を被告会社に引き継ぐものとすること、日発従業員についても右同様であるが、日発は全国に各支店を有し、その従業員は新たに設立される九会社に引き継がれることとなるため、そのうち被告会社に引き継ぐ者は、日発東北支店(磐梯支社を除く。)および関東支店の一部(鹿瀬支社、高田支社等)に所属する従業員とすること、しかしながらすでに日発、配電各社から本件通告を受けて右各社に退職願を提出している目録第一、第三記載の原告らおよび本件通告に対し退職願を提出せず、被告会社設立前日発、配電各社との間で、身分保全仮処分を申請して係争中であつた目録第二、第四記載の原告らについては、いずれも右引き継ぎの対象とはしないこと、そのため目録第二、第四記載の原告らに対しては、念のためその旨を各通知すべきものとすること等を取り決め、なお前記取り決めの趣旨に従い、目録第二、第四記載の原告らに対しては、日発、配電各社から昭和四六年四月二八日付書面で、前記仮処分申請事件より生ずる権利義務は、同年四月末日までに右事件が解決をみないばあい、同年五月一日以降日発、配電の各清算事務所に承継されることとなる旨各通知したものである。

以上の事実を認めることができ、右認定を覆すに足る証拠はない。

右認定事実によれば、配電各社と被告会社との間には、原告らを引き継ぎの対象から除外する旨の取り決めがなされたのであるから、日発、配電は被告会社に対し前記承継方法に定める承継除外の特別の意思表示をなしたものというべきである。しかして右特別の意思表示は、日発、配電から被告会社に対してなされるべきものであるから、目録第一、第三記載の原告らに対して右意思表示がなされなかつたとしても、それは何ら承継除外の特別の意思表示の効力に影響を及ぼすものではないというべきである。

(3) 原告らは、日発、配電各社と被告会社との間には、原告らの雇傭関係を承継する旨の特別の合意がなされた旨主張するが、前記認定のとおり、右会社間には原告らを承継の対象から除外する旨の取り決めがなされたものであつて、原告らの主張するような事実を認めうる証拠はないから、右主張は採用できない。

(4) 以上の次第であつて、原告らの日発、配電各社との雇傭関係は被告会社に承継されなかつたものであるから、原告らは被告会社の従業員たる地位を取得しなかつたものといわなければならない。

第三別表記載の原告らの予備的請求について

前記認定判断のとおり、原告らと日発、配電との雇傭関係は合意解約または裁判上の和解により終了しており、しかも日発、配電と原告らとの雇傭関係は被告会社に承継されず、原告らは被告会社の従業員たる地位を取得しなかつたものであるから、原告らが被告会社の従業員たる地位を取得したことを前提とする原告らの予備的請求はその余の点について判断するまでもなく失当というべきである。

第四してみると、原告らの本訴請求はいずれもその理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九三条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(伊藤和男 若林昌俊 手島徹)

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